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■ 2011年度年次大会

日本行動科学学会2011年度年次大会のご案内

 2011年度の年次大会を日本心理学会の前日である2011年9月14日(水)に、 東京都健康長寿医療センター老化制御研究チームの柳井 修一氏を大会委員長として、 講演とシンポジウムの形式で開催いたします。多数のご参加をお待ちしております。
 なお、大会への参加、懇親会ともに申込は不要です。

日程:2011年9月14日(水)13:00より
場所:桜美林大学 四谷キャンパス(東京都新宿区四谷1-21)
    地図はこちら
大会参加費:1000円

プログラム
受け付け開始(12:00 地下ホール前)
拡大運営委員会(12:15〜12:45 4階会議室)

会長挨拶(13:00〜13:10 地下ホール)
磯 博行(兵庫医療大学)

教育講演(13:10〜14:45 地下ホール)
司会:柳井修一 (東京都健康長寿医療センター、大会委員長)
演者:杉岡幸三 (姫路獨協大学 医療保健学部、企画委員長)
演題:受精の瞬間から子育てが始まる 
−こどもの行動異常とそれをもたらす神経学的基盤に関する実験的研究−

シンポジウム「サクセスフル・エイジングへの招待」(15:00〜18:00 地下ホール)
企画:柳井修一・高瀬堅吉
司会:高瀬堅吉(東邦大学 医学部)
演者:
  1. 「長期食餌制限による老齢ラットの認知能力改善」
    柳井修一(東京都健康長寿医療センター 老化制御研究チーム)
  2. 「軟骨伝導補聴器の開発−耳は口ほどにものを言う−」
    下倉良太(奈良県立医科大学 耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座)
  3. 「メタ記憶とサクセスフル・エイジング」
    島内晶(群馬医療福祉大学 社会福祉学部福祉心理コース)
  4. 「高齢者の社会的ネットワークに関する検討−青年との比較から−」
    木村年晶(同志社大学 心理学研究科)
懇親会(18:30〜、詳細は大会当日にお知らせします)

大会に関する問い合わせ
行動科学学会事務局
E-mail: jabs.office[at]gmail.com ([at]->@)


教育講演要旨

受精の瞬間から子育てが始まる−こどもの行動異常とそれをもたらす神経学的基盤に関する実験的研究−
杉岡 幸三(姫路獨協大学医療保健・w部こども保健学科 発達神経行動科学・機能形態学分野)

 1個の卵子と1個の精子が運命的に出会い受精が行われる。 私は、卵子と精子が出会うこと、すなわち受精の瞬間から命が育まれるということは、 互いに見知らぬ男女が運命に導かれるように初めて出会い、幾多の困難を乗り越えて愛し合い、 そして結婚するのと似ている、と思っている。このようなドラマチックな過程が私たちの身体の中で起こっているという、 この漠然とした驚きと喜びを共有しない人は不幸であるとさえ思っている。私は機会あるごとに、「子育ては受精の瞬間から、 いや受精のもっと前から始まる」ということにしている。 しかし、人生の最初の第一歩から多くのハンディキャップを背負って生まれ出てくる多くの子どもたちがいる。 これらの子どもたちの中には、医薬品や嗜好品、また有害な農薬や金属など、 避けることができる種々の内的および外的環境因子が原因となっている場合がある。 生まれてくる子どもの人生のすべての始まりと終わりを決めてしまうかも知れない、このような環境因子の胎児への影響は、 精神発達遅滞や種々の行動異常のような脳の形態的・機能的障害として現れることが多く、子ども自身だけでなく、 その子どもを育てる両親、またこれらの人たちを取り巻く多くの人たちも大きな身体的・精神的また社会的・経済的負担を一生涯にわたって負うことになる。
 本教育講演では、実験心理学者として、そして神経発生および神経解剖学者として、 著者が、ここ30年、上記の問題を常に意識しながら行ってきたいくつかの神経行動学的研究を概観し、 のちに続く若い研究者たちに少しでも、一瞬の雷鳴のような学問的刺激を与えたいと考えている。


シンポジウム企画趣旨

サクセスフル・エイジングへの招待
柳井修一(東京都健康長寿医療センター)・高瀬堅吉(東邦大学)

 古来より日本では、喜寿や米寿、白寿、百寿など「寿」の文字をあしらって長寿を祝ってきた。 例えば、およそ1世紀前の我が国における平均寿命は男女とも45歳前後であり、 70歳を超えて年齢を重ねることは稀であり喜ばしいことであったということは想像に難くない。 だが現在の日本では全人口に占める65歳以上の高齢者の割合が22%を超過しており、長寿は希有な現象ではなくなっている。 超高齢化社会に突入した昨今では高齢者の心身機能の衰えが取り沙汰されており、 「年をとる」ことはネガティブな印象を与えがちであり、また「老い」は悲観的に語られることが多い。 しかし、単に長生きをするだけでなく、幸福で生き甲斐に満ちた高齢期を迎え、そこで心身とも健康に過ごすこと、 即ち「サクセスフル・エイジング」を達成することは誰しもが切実に願うことであろう。
 全ての動物と同様、老化は我々ヒトが生きてゆく以上避けることができない現象であり、この老化現象は生活習慣や環境、行動傾向、 遺伝など種々の要因によって複合的に影響を受けるという点で特徴的である。こういった複合要因の関与が老化の包括的理解を困難にしている反面、 単一の分野だけでなく多岐にわたる分野の見地から老化へ、そしてサクセスフル・エイジングへアプローチすることもまた可能であろう。 そこで本シンポジウムでは、4人のシンポジストそれぞれの分野の見地から老化現象を多角的に捉え、サクセスフル・エイジングを達成するためのアプローチについて議論したい。
 なお発表内容は査読を受けた後、機関誌「行動科学」に掲載される予定である。


シンポジウム要旨

長期食餌制限による老齢ラットの認知能力改善
柳井修一(東京都健康長寿医療センター 老化制御研究チーム)

 ヒトの身体及び認知能力が加齢に伴って低下することは、数多くの実験によって報告されている。 高齢者が日常生活を不自由なく送るため、またサクセスフル・エイジングを達成するためには、 身体能力と認知能力の両方健康な状態に維持することが必要である。 これまで、ラットを用いた多くの研究から老齢期において認知能力を健康な状態に保つ条件が検討されてきた。 若齢で開始した長期食餌制限は身体能力に有益な効果をもたらすことが報告されており、 長期食餌制限が認知能力に有益な効果をもたらすことが明らかになれば、 食餌制限によって老齢期に身体及び認知能力を健康な状態に維持することが可能である。 シンポジウムでは、食餌制限による認知能力改善効果を中心に議論を行う。


軟骨伝導・竰ョ器の開発−耳は口ほどにものを言う−
下倉良太、松井淑恵、西村忠己、細井裕司(奈良県立医科大学耳鼻咽喉・頭頸部外科学講座)

 近年の高齢化に伴い補聴器の出荷数は増え性能は向上してきたが、 中耳炎による耳漏や外耳道閉鎖症がある難聴者は、多く普及している気導補聴器を使用できない。 こういった既存補聴器が使用できない難聴者を対象として、我々は軟骨伝導を用いた補聴器の開発を進めている。 軟骨伝導の研究は、2004年に細井がある種の圧電振動子を耳珠にあてると 耳軟骨を介して内耳への良好な音伝導がえられることを発見したことが端緒となった。 その後試作機を用いた物理測定から、耳軟骨が振動体となりスピーカのように外耳道内に音を生成するメカニズムが明らかとなり、 実際聴力・語音明瞭度が改善される臨床例が見られた。新しい音伝導特性を持つこの補聴器を、我々は次世代聴覚補助具として期待している。


メタ記憶とサクセスフル・エイジング
島内晶(群馬医療福祉大学 社会福祉学部福祉心理コース)

 一般に、加齢に伴って記憶低下の訴えが多くなると考えられている。 しかし、記憶の自信度を測定した私たちのメタ記憶研究では、高齢者は若年者よりも記憶の自信度が高く、 しかも社会参加の多い高齢者ほど記憶の自信度が高かった。ところで、現実には、加齢に伴い記憶の失敗経験は増加する。 そこで、記憶の失敗経験とメタ記憶の関連性に関して、正記憶および虚偽記憶について検討を行った。 その結果、メタ記憶は、正記憶成績とは関連がないものの、虚偽記憶に関しては、 記憶の自信度が低い高齢者の方が自信度が高い高齢者よりも多かった。 本発表では、これらの結果について、サクセスフル・エイジングの観点から検討を行いたい。


高齢者の社会的ネットワークに関する検討−青年との比較から−
木村年晶(同志社大学大学院心理学研究科)

 急速に進展する高齢社会の一方で、高齢者の大半は病気や障害に対する何らかの自覚・ヌ・をもちつつも依然として健康に暮らしていることが示されている。 したがって、健康な高齢者がどのように生きていくのかが、これからの重要な課題である。 そこで、高齢者のもつ社会的ネットワークを生き方に関わる重要な指標として取り上げ、 生涯発達的観点から社会情動的選択理論に関する研究を概観する。 次に、高齢者の社会的関係について明らかにし、 サクセスフル・エイジングを達成するためのアプローチについて社会情動的選択論を中心に議論をおこなう。

2011年度年次大会開催報告

 2011年9月14日、東京都健康長寿医療センターの柳井修一氏を大会委員長として、日本行動科学学会2011年度年次大会が開催されました。  場所は桜美林大学四ッ谷キャンパスでした。大会のテーマは「行動科学から俯瞰した生涯発達」であり、教育講演とシンポジウムが行われました。
 大会前半の教育講演では、日本行動科学学会企画委員長である杉岡幸三氏(姫路獨協大学 医療保健学部)による  「受精の瞬間から子育てが始まる−こどもの行動異常とそれをもたらす神経学的基盤に関する実験的研究−」と題した教育講演が行われました。  杉岡氏は受精のメカニズムから胎児期に至るまでの個体発生、さらに催奇形性の感受性を概観した後、脳の発生学的形態異常を有するラットの行動異常に関する自身の研究を紹介してくださいました。  杉岡氏の研究はまさしく「心理学における基礎と臨床の橋渡し」として位置づけられる壮大な研究であり、今後心理学のみならず他の研究領域においてもこのような観点の研究が求められることを示唆してくださいました。
 大会の後半では、「サクセスフル・エイジングへの招待」と題したシンポジウムが行われました。シンポジストは柳井修一氏(東京都健康長寿医療センター)、下倉良太氏(奈良県立医科大学)、  島内晶氏(群馬医療福祉大学)、木村年晶氏(同志社大学)の合計4人、企画は柳井修一氏及び高瀬堅吉氏(東邦大学)、司会は高瀬堅吉氏でした。サクセスフル・エイジングへのアプローチに関する研究が  4人のシンポジストそれぞれの立場から紹介され、如何にして幸福で生き甲斐に満ちた高齢期を迎えることができるのかについて議論が行われました。  サクセスフル・エイジングへのアプローチのみならず、その背景である老化現象の捉え方もシンポジストによって大きく異なっており、  サクセスフル・エイジングを実現するためには老化現象そのものの多角的理解が必要であることを再認識しました。
 議論は大会場にとどまらず、その後の懇親会でも行われました。懇親会での活発なやりとりはウィンターカンファレンスを彷彿とさせるものであり、発表者との間で、また参加者同士で満足する議論ができたようです。
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